耕作放棄地から地域に経済を生み出す –青パパイヤ栽培に挑む馬場さんの物語

受講生の「Will」とその後

株式会社WEが各地で実施している「WBL」(Will Based Learning)の受講生が、WBLによってどのような「Will」を確立して、そしてその後の事業にどのように活かして取り組んでいるかを、受講生のインタビューでお伝えする連載記事です。
ここでは、栃木県が2021年度、2022年度に「新規事業創出プログラム」として実施した「Will Connectivity」を受講した受講生のその後を追います。

第1弾となる本稿では、栃木県の耕作放棄地を利用して青パパイヤを栽培する、というとてもユニークな事業をパワフルに推進している株式会社コンフォートファームの馬場さんにお話を伺いました。

定年後に故郷に戻り農業を始めました。今では中学の同級生も仲間に加わってくれて、一緒に青パパイヤを育てています。

馬場さん、こんにちは。お久しぶりです。まずは、改めて、馬場さんが取り組んでいらっしゃることを教えてください。
こんにちは。私は、栃木県佐野市で、耕作放棄地(※)を利用して、青パパイヤを栽培するという事業に取り組むために、株式会社コンフォートファームという農業法人を設立して、農業をやっています。

※編集部注)耕作放棄地とは
(それまで耕作を行っていた土地で)「過去1年以上作物を作付け(栽培)せず、この数年の間に再び作付け(栽培)する考えのない土地」(国連の食糧農業機関の提唱によって行われる農業センサスにおける定義)。
この30年間、全国的に増加しており、全国では39.6万ヘクタール(埼玉県とほぼ同じ面積)に達している。
調査によると、高齢化・労働力不足を理由とする耕作放棄が最も多く、次いで、農産物の価格低迷などが原因とされている。
一度耕作をやめて数年が経つと、農地の原形を失うほどに荒れてしまうと言われており、耕作放棄地が及ぼす周辺地域の営農環境への悪影響としては、病害虫・鳥獣被害の発生、雑草の繁茂、用排水施設の管理への支障等が考えられている。

青パパイヤは、4月に植え付けました。試験栽培も含めて、今年で3回目の栽培です。
4月に植えて、9月に収穫するのですが、今年は100本の苗を植えました。
1本の木からだいたい35個から40個の青パパイヤの実が収穫できる見込みですので、今年は4000個くらいの収穫を目指しています。

馬場さん。株式会社コンフォートファーム 代表取締役。2019年に生まれ故郷である栃木県佐野市に居を構えて、耕作放棄地を利用しての青パパイヤの栽培を行っている。

青パパイヤというのはあまり馴染みがない食材に感じる人も多そうですが、どんな食べ方をするのですか?

たしかにまだまだ日本ではお馴染みの食材とは言えません。
でも、東南アジアの国、特にタイでは毎日食べたいという人もいるくらい親しまれていて人気のある野菜なんですよ。

1つの実はだいたい500gくらいで、千切りにしたものをサラダにして食べるのが一般的ですが、その他にもたくさんのレシピがあります。
生でも美味しいんですけど、炒めても、煮ても、美味しい。

なにより、パパイヤの酵素が健康にも美容にも良い、これからオススメの健康野菜です。

試供品としてつくっている「乾燥パパイヤ」。実の半分くらいが1パック分(約20g)になっている。水で90分ほど戻すと、約12倍の重量になり、生の青パパイヤのシャキシャキコリコリとした食感が蘇る。

青パパイヤのサラダ、タイでは「ソムタム」という名前で有名ですよね。私も大好きです。ところで、なぜ、青パパイヤを、そして、なぜ栃木県佐野市で栽培しようと思ったのですか?

私は、ここ佐野市で生まれ育ちました。

東京で化学系の企業のコンサルタントとして働いてきましたが、老後の第2の人生を故郷(ふるさと)である佐野市で、と思って、こちらに住居を買って、「2拠点」生活を始めました。

その際に、家だけでなく、畑も一緒に購入してほしいと言われたんです。

そこで、私は、2年ほど研究を重ねて、青パパイヤであれば、耕作放棄地になってしまっている土地を活用して、他の作物よりも比較的少ない労力で獣害にもあわずに耕作できるのではないか、という結論に至りました。

ずっと農業をやってきた人は、田畑の雑草を抜きたがるのですが、青パパイヤは雑草を抜かなくてもよい。虫もつかないので、農薬もいらない。

肥料を2週間に一度与えて、あとは温度管理に気をつけてあげれば、半年ほどで実がなるまでに育ちます。

苗を植えてから約2ヶ月の青パパイヤ。順調に育つとここから約半年で実がなるまでに成長するという。

農業は、楽しいですね。今までの仕事とはまったく違う。
毎朝、起きると農地まで歩いて、苗の様子をみます。毎日みていると、色々なものが見えてくる気がします。

今では、ご近所さんから、「うちの耕作放棄地でもつくってくれないか」と頼まれたりもして、栽培する量が増えてきました。

今年は、中学校のときの同級生も仲間に加わってくれて、一緒に青パパイヤをつくっていますので、合計200本の苗を植えました。

私のWillは「故郷の耕作放棄地を減らしたい。そして、青パパイヤから経済を生み出し、次世代の人に渡したい」

お仕事を定年退職されてから、それまでやったことのなかった農業に踏み出す、というのはすごいエネルギーだと思います。馬場さんのエネルギーは、どのような「Will」からきているのですか。

東京で仕事をしていたときは、ビジネスの基本は色々ありました。
でも、「Will Connectivity」のような切り口での教育方法はありませんでした。

私は今、耕作放棄地を減らしたい。そして、故郷である佐野市に、経済を生み出したい、という「Will」をもって青パパイヤの栽培に取り組んでいます。

実は、農地を取得するにはとても大変な手続きを経る必要がありました。
一定期間の就農の実績、農業法人の設立、必要な設備投資を経て、ようやく農業委員会から、農地の取得が認められます。

私は、農業法人の設立登記手続や、畑の売買の手続も全部自分で行いました。大変でしたが、すべて「Will」が明確だったから諦めずにここまでやってこれたと思います。

青パパイヤ栽培のために購入した自慢のトラクター。自宅の納屋から農地に通れるように、と自宅前の私道の拡幅工事も行われていた。

馬場さんのWillは、「Will Connectivity」を受講される中でどうやって生み出されていったのですか?

最初は栃木県が実施している「創業サポートアカデミー」を受講しました。

そこで出会った同年代の仲間に、「Will Connectivity」っていう新規事業創出プログラムもあるみたいだよ、と声をかけられたのが受講のきっかけでした。

人脈づくりにでもなれば、と軽い気持ちで受講したのですが、最初は正直「失敗したかな」と思いましたが(笑い)、内容が役所が開催するセミナーのような教科書的なものでは全然なく、他の受講生の姿から、それぞれの方が目指している社会像や、社会貢献の姿がみえてくるのが刺激的でした。

正直、毎回の宿題も大変で、ついていくのは大変でした。
それでも、講師のとだっちは優しくて、いつも「1on1」で会うと、じっくり話をきいてくれました。

栃木県スタートアップ企業支援事業「新事業創造プログラム」(Will Coonectivity)の修了証。講師である「とだっち」から記念に贈られたステッカーも一緒に飾られていた。

私は、この土地で生まれ育ったので、若いときから農地をみてきました。
国の農業政策の結果でもありますが、農家は減反をして補助金をもらって、多くの田畑が耕作放棄地になっていくのをみてきました。

減反した分、他の作物を育てるような動きが生まれればよかったのですが、そうはならず、結果として、今、ここまで耕作放棄地が増えてしまいました。

耕作放棄地を我々の世代で、経済的に利益を生み出せるレベルの青パパイヤ農園にする。
そして、次世代の若者にこの農業のやり方を受け渡していく。

大きな理想をいえば、そのやり方に可能性を感じた若者が、この土地に集まってくれるようになれば最高だと思っています。

5月下旬の昼下がり。馬場さんはご自宅のまわりにあるご自分の農地を歩いて案内してくれた。

そのために、まずは青パパイヤ栽培を定着化させる。

その次の目標は新しい作物にも挑戦し、収穫体験や、木のオーナーにもなってもらえるような観光農園の手法を取り入れていく。

そうやって、この地に新しく、あるいは戻ってきてくれる人が増えていく、そんな未来を描いています。

とだっちView



馬場さんは受講生でもありながら様々な経験から他の受講生を引っ張っていってくれていて、とても助かりました。1on1では僕の話も聞いてくれたり、馬場さんの経験談から多くの気づきを頂きました!!

馬場さんの発言だけでなく、行動力が他の受講生に良い影響を与えてくれたと思っています!!馬場さんのWillと行動を聞いた皆さんは「応援したい!」と思ったはずです。実際に色々な方が青パパイヤの販路拡大に向けて動いてくださいました

青パパイヤの普及はまだまだ難しいところが多くあると思いますが、Willを掲げて行動しているのでいつか絶対に達成できると思います。

Willがあるから行動できる。Willがあるから諦めない!
これからも応援しています!!
PAGE TOP